★ アマ宿り

パシャパシャパシャ

音をたてて走っている

裾は言うまでも無く、頭もびしょ濡れだ

まったく、晴れると言ったじゃないか、良純め

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電車の帰宅ラッシュに揉まれて外に出れば、そこはどしゃぶりの雨だった

当然傘はない

駅の出口で空を見上げて途方に暮れる人々を尻目に

早足に家に向かってみたが、少々見くびっていたようだ

やれやれ、こんなことならあの群れに加わっていれば良かったか

思い直したところで駅は遠く

しょうがなく足を急がせた

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体の冷えが酷くなってきた

雨足は弱くなる気配は無い

少々休憩をしようかと思い立ち

目の端に止まった軒下で雨宿りをすることにした


額から落ちる雫を拭い、周りを見回してみると

他の軒下にも雨宿り客はいた

ここにはいないようだが

パシャ

あぁ、どうやらいたようだ

足元に跳ねるカエルが一匹

雨空を見上げてそこにいた



―――カエル君、カエル君。君も雨宿りかい？

「おいおい、馬鹿を言うなよ。僕はカエルだぞ？どうして雨宿りをする必要があるのさ」

―――ハハッ、それは違いない。ならどうしてここにいるんだい？

「少し遊び疲れたのさ」

それきりカエルは黙った



雨は降り続いている

カチ、シュボ

所在ないので煙草を吸うことにした

すると

「おいおい、煙草はやめてくれよ」

―――煙は上に行く。君は下にいるから大丈夫じゃないか

「アクアフィルタ」

―――は？

「雨がヤニを吸着して下に落ちる。君は僕にヤニに打たれろと言うのかい？」

―――そうか、雨が空と地を結んでいるんだね

「そんなことに今更気付いたのかい？」

―――ごめん、ごめん。なら煙草はやめることにしよう

煙草をポケットに仕舞い、沈黙が再び戻る


空と地を結ぶもの

それが、ただただ降り続いている

「この雨はね......」

―――ん？

「この雨は僕らが降らせているんだ」

―――君達カエルが、かい？

「そうだよ」

―――へぇ、凄いんだね

「馬鹿にしてるだろう？」

カエルは文字通り頬を膨らませて不機嫌そうに声を出した

―――違う、違う。本当に凄いと思ったんだよ。雨を降らせられるなんて、まるで神様みたいだ

「君達人間だって、大地を作り変えられるじゃないか。それと同じだよ」

―――同じ、かなぁ？

「同じだよ」

―――じゃ、そういうことにしておこう

「むぅ。君はいちいち人の癇に障る言い方をするな」

―――悪気は無いよ

「その言葉に悪気があるよ」

―――そうか。あ、いや、他意はないんだ。謝るよ、ごめん

「律儀な奴だな。君はどうしてカエル相手に謝っているのさ」

―――さぁ、話し相手になってくれたからかな

「おかしな奴だ」

―――よく言われるよ

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濡れた体が適度に乾いた頃、カエルは一度跳ねてこちらを向いた

「僕はもう行くことにするよ」

―――そう、じゃあ僕も行くよ

「じゃあな、おかしな人間」

―――じゃあね、小さな神様


カエルはそのまま雨の中に跳ねていった

僕も行くことにしよう

と、

ズァァァーーー!!

通りがかった車に泥水を浴びせられてしまった

不愉快だ

一言文句を言ってやろうかと思ったが、テールランプは遥か遠くだ

諦めて帰ろう




パシャ、パシャ、パシャ

パシャ、パシャ、ピチャ

雨足は弱くなってきたようだ

★ 譲れないものひとつ

一番という言葉に魅力を感じない

これは子供の頃からだ

テストで一番をとった教科よりも

前より点数が向上した教科に喜ぶ


一番頭のいい人

一番かっこいい人

一番優しい人

一番楽しませてくれる人

一番幸せにしてくれる人


それのどれにもなりたいとは思わない

勿論、努力を怠るつもりは無い

昨日より優しい自分になろうとか

昨日より頭のいい自分になろうとか

そういう努力はしているつもりだ

でもそれを他の誰かと比較するつもりはない

俺は俺なりにやって生きたいからね





でも

でもたった一つだけ

たった一つだけ譲れないものがあるとするならば



他の誰がかける愛情よりも

君を強く愛しているということ


このことだけ貫けるのであれば

俺はそれでいい

★ 恋情録音

文字の綴られた紙面



その隅に

ゆっくりと火を灯しましょう




黒く変色し

ブスブスと音をたてて焼けていく






叩いても火は消えません


ただゆっくりと


しかし確実に




紙を焦がしていく







綴られた歌は世界に融け




鳥たちは歌い出すでしょう





灰を枯れ木に蒔けば






情熱的な真っ赤な華を咲かせるでしょう





他の誰もが証明出来なかった恋情は、しかし






世界の中に確実に録音されていく

★ 帰還前の幕間

帰る前に札幌をウロウロ

時計台の前に馬車が止まっていた

四代目〇〇〇〇二号



四代目なのか二代目なのかはっきりせい



で、某掲示板で

「ラーメン食いに行こうぜ」

という色羽さんの発言により久楽(くら)へ

醤油ラーメンを頼む夏影に対して

色羽「ここに来て、味噌ラーメン(人気No.1)頼まないでどうするのさ」

夏影「醤油ラーメンだって人気No.2だからいいじゃん」

美味しかったから結果オーライです



で、いつものパターンで珈琲を飲みに行く二人

今回は色羽さんオススメのミンガス珈琲へ

フレンチ珈琲を頼む夏影に対し、アイスココアを頼む色羽さん

珈琲飲みに来たんじゃないのか、というツッコミは飲み込み、早速珈琲に手をつけようとすると

色羽「あぁ！もう、取っ手を撮りたいんだから、触ったら駄目」

夏影「......すいません」

......なんで謝ってんだ、俺

写真はAmur掲示板にあるから、興味がある人はそちらをどうぞ。夏影の腕が写っています

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色羽さんと遊ぶ時は、観光名所とか遊び場に行くより、喫茶店に行くことのほうが圧倒的に多い(小樽行ったときは三軒も行くほど)

確かにカラオケ行ったり、ビリヤード行ったりするのは楽しいけど、俺は喫茶店で過ごすまったりとした空気が好き

珈琲と煙草を楽しみながら、たわいない話に興じるのも一興

何かをしてる時間より、たわいないお喋りしてる時間の方が圧倒的に長いよな、俺達

また美味しい喫茶店を見つけたら一緒に行こう

その代わり、次に室蘭来るまでに珈琲豆のブレンドを模索しておくよ

それじゃ、また

 

★ 帰還

帰ってきました

ソロモンに

じゃなかった、室蘭に

硫黄の匂いと、潮の香りと、工場の煙の匂いが混じった感じ

これだけ見ると不快な匂いに見えるけど、これを嗅いだら帰ってきたんだって思います

江別は甘い匂いがするんです

森や畑が多いからですね、きっと

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坂道を登るたびに思う

俺の住む場所は室蘭であり、帰ってくる場所も室蘭なんだって

狭い部屋に所狭しと置かれた家具に囲まれて、煙草を吸ってれば凄く落ち着く

一時は引っ越そうとも考えたけど、ここに腰を落ち着けた以上、室蘭から離れるまでここにいようと思う

住めば都

この狭い部屋が俺にとっての家

これで充分じゃないか



......まぁ最大の理由は金銭的な問題なのですが

大学在学中に贅沢は出来ない

贅沢は敵です