★ 荒野に建つ墓標

もしこの世に神様ってやつがいるんだとしたら

本当に厄介なシステムを作ったもんだと思う

設定された人間の寿命では

どれだけ足掻こうと、全ての謎は解明されない

どれだけ足掻こうと、全ての知識は把握出来ない



もう数学者はこの世にいないんだよ

そんなものは100年前に滅びた

既存の数学の知識を全て把握した人間はもういないんだよ

あまりに知識が増えすぎた

同時に

あまりに謎が増えすぎた




だから

人類の墓標に刻むなら、やっぱりこの言葉が一番いいと思う






―――神様、わかりませんでした

★ 無題

偶然と偶然が重なり合った世界で生きているのだと思っていた



アナタを見つけたその時に

すべてが必然だったんだと思えちまった

★ 恋情録音

文字の綴られた紙面



その隅に

ゆっくりと火を灯しましょう




黒く変色し

ブスブスと音をたてて焼けていく






叩いても火は消えません


ただゆっくりと


しかし確実に




紙を焦がしていく







綴られた歌は世界に融け




鳥たちは歌い出すでしょう





灰を枯れ木に蒔けば






情熱的な真っ赤な華を咲かせるでしょう





他の誰もが証明出来なかった恋情は、しかし






世界の中に確実に録音されていく

★ 跳躍する漸近線

浮遊


落下



接近



接近



接近....







到達されることのない正と負の境界



漸近する思考



落下と共に鈍る感覚







時の法則は歪められ



やがて刹那は永遠となる



否



永遠などない



到達されることのない漸近



それを人は永遠と錯覚する







10年



人々の記憶から存在が薄れ



100年



共に過ごした人間は消え去り



1000年



やがて世界から存在は抹消される







その瞬間



物理法則は歪められ



到達されることのないはずの存在が



虚無へと



落 墜 堕

ち ち ち

る る る









こうしてようやく生命は死へと至るであろう

★ 小休止

眼前の未来を見据えて走り続ける

頭上の覇者を夢見て走り続ける

大いに結構


だがね、そんなことしてると足元の小石を見逃すぜ？

あぁ、ほら危ない

だから言ったろ？

痛いのは嫌じゃんか

たまには立ち止まって目を瞑ってみろよ




次に目を開けたとき

その瞳に映る世界は

今までとは違って見えるはずだから