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空からはしんしんと雪が降っていて、それが僕の肩に積もっていく
吐く息が白くて、コートの襟を立てた
かじかんだ手を暖めようと、コンビニで缶珈琲を買って
手を温めながら、美味くもないそれをちびちびと啜っていた
人を待つのが好きだ
誰かと会う前の、その時間が好きだ
早く会いたい、という気持ちよりも
会ったらどんなことを話そうか、とか、君はどんな表情をするのか、とか
そういう気持ちのほうが強い
待たされる側(いや、好んで待っているのだが)でなければこの気持ちは味わえないだろう
遅刻をするのは嫌いだ
この気持ちを味わう余裕もなく、ただただ目的地に急ぐことしか考えられないから
胸ポケットから煙草を出して、それを咥える
かじかんだ手で、ライターに火を灯そうとするが上手くいかず、何度目かの試みでようやく火がつく
ジジッ、という音と共に煙草に火が付いて、煙と共に白い息を吐き出す
その靄を目で追っていると、その向こうに君の姿が見えた
急いできたのだろうか?
彼女の口元からは頻繁に白い息が吐き出されている
急ぐ必要なんてなかったのに
肩の雪を払い、まだ長い煙草を消して彼女の元にゆっくりと歩いていく
時間に遅れたわけでもないのに君は謝って、それを宥めて二人で並んで歩く
手のかじかみは
ゆっくりと消えていった
―――writer natsukage
数年に一度の流星群が来るらしい
どうせ家にいてもすることはない
なら、見に行かない手はないだろう
アパートの裏の川沿いの土手にビール片手に腰を据えてみた
流星群はまだらしい
付近には人一人見当たらないが、おそらくもっと見晴らしのいい丘にでも行ったのだろう
あいにくと流星ぐらいに遠出する気は起きない
「ねぇ、おじさん」
誰もいないと思っていたのだから多少は驚いたさ
いきなり背後から声をかけられたんだから
振り返ると、そこにはあどけなさの残る少年が立ってこちらを見下ろしていた
―――なんだ、坊主
「おじさんはどんなお願い事をするの?」
『流れ星が消える前に願い事を言うと、願いが叶うらしいよ』
昔、そんなことをクラスの女子が言っていたっけか
子供の頃ならいざ知らず、流れ星が願い事を叶えてくれるなんて信じられるほど俺は若くない
でも...そうだな。ここで子供の夢を壊すほど俺は人格破綻者じゃない
―――そういう坊主は願い事があるのか?
「あるよ」
―――なんだ?言ってみろ
「みんなをしあわせに出来るような大人になれますように」
―――皆ってのは家族か?
「ううん。みんな」
―――クラスの友達か?
「もっとみんな」
このガキ...まさか目に付く人間をかたっぱしってことか
―――まるで正義の味方だな
「うん。ぼくウルトラマン大好き」
―――クッ、ハハッ、ハハハハハ!!
本来ならば呆れるべきなんだろう。だが、俺は爆笑した。これ以上ないって程爆笑した
「おじさん、ぼくなんか変なこと言った?」
―――ふ、ハハッ。いやいや、すまない。坊主はなんも変なこと言ってないぞ
「でしょ?」
―――あぁ、立派な夢だとも
「じゃ、次、おじさんの番ね。おじさんのお願いごとを言ってよ」
―――俺の願いか?そうだな。坊主の願い事が叶いますように、かな
「何それ?おじさんの願いなのに、なんでぼくのことなの?」
―――坊主は皆を幸せにするんだろう?ならよ、ついでに俺も幸せになれるかもしれないじゃないか
「う~ん、そうだけど」
―――まぁ、そういうこった。頼んだぜ、坊主
「でも...」
―――ほらほら、余所見してる暇があるのか?始まったみたいだぞ
そう告げてやると、少年は空を見上げる
空には幾千の星が飛び交っていた
俺は空を尻目に少年の横顔を覗いた
目を閉じながら、一心に願い事を唱えているのだろう
子供ってのは呆れるほど純粋で、大人になるにつれその純粋さは失われる
本来なら侮蔑すべきなのかもしれない
だけど、今回だけはこの少年に敬意を払ってやろう
―――この坊主の願いが叶いますように
そう、静かに心の中で唱えた
―――あ、ついでに俺が結婚できますように
「おじさん、今、ふじゅんなこと考えなかった?」
―――気のせいだ
「あめあめ ふれふれ かぁさんが じゃのめでおむかいうれしいな ぴっちぴっち ちゃっぷちゃっぷ ランランルー」
少女は晴れの日にレインコートを着て踊っていた
それを見兼ねた男性は尋ねた
―――お嬢さん、お嬢さん。どうして晴れの日にレインコートを着ているんだい?
「私、雨の日が好きなの。お母さんと一緒に歩く雨の日が好きなの」
―――そう。でもお嬢さん、晴れの日にレインコートを着ても意味がないんじゃないかな?
「こうしていると、これを見た神様が降らせてくれるかもしれないわ」
―――降ると良いね
「うん」
そう言った少女の笑顔は輝いていた
だから
傘を持たない私も、雨が降ることを願っていた
そうすれば、少女は喜ぶだろう
たまには
雨に濡れて歩くのも悪くない
―――あぁ、そうそう
去り際に私は気になっていたことを口にした
―――君の歌った歌詞。間違っているよ
「知ってる。私、ハンバーガーも好きなの」
―――そう。道化師のおじさんによろしく
帰り際に寄ったマックを出た頃には、空からぽつぽつと雨が降り始めていた
きっと、あの少女は輝くような笑顔で母親と一緒に歩いているだろう
さて、雨に濡れて帰ろうか
勢いが弱まったら、薪をくべて
暖を取る
羽虫は、己の運命も知らずに炎に身を投じる
いや、もしかしたら
己の死を知りながらも
それでも光を求めて飛び込んでいくのかもしれない
君という炎ならば
私は喜んで飛び込んでいきましょう
燃え尽きたら灰を風に乗せて飛ばして下さい
そうすれば
私は世界の一部になれるから
―――ここではない何処かへ
世界は広くて
どうしようもないほど離れてしまうことがあるけど
僕達が息衝くところは、すべて空で繋がっている
でも
でも、もし
そこが
隔離された場所なら
空が
繋がっていない場所なら
僕の声の届かない場所なら
それは酷く寂しいこと
湧き上がる痛みの奔流
加速する思考
一瞬が永遠になって
刹那の逡巡で、僕はもう一度
僕の人生を体験した
血液が凍り付いて
死を
間近に感じた
あんな体験は二度としたくないし、してほしくない
名も知らぬ君がこの世界から消えても
僕はそれを受け止められない
―――もし私が死んだら、○○はどうします?
―――その日、一日、禁煙しましょう
煙草の代わりに花に火をつけて、空に送りましょう
―――馬鹿だね。空は、繋がっていないのに